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母も父も、気づくと家にいなかった。
父さんは、イギリスに1ヶ月出張だからね。
母さんも、アメリカに1ヶ月出張なのよ。
父は外交官、母は有名ファッションデザイナー。
私のこと、家のこと、全部家政婦さん任せだった。
ツンちゃんはお金持ちでうらやましいね、そんなことを言われるけれど
お金持ちのどこがうらやましいのか、全然わからなかった。
仕事仕事で家に寄り付かない父と母。
沢山甘えたかったのに、強がりの性格も邪魔をして、平気な顔をし続けた。
母がくれた、ウサギのぬいぐるみ。
物心付いた時から、その子が私の友達だった。
幼稚園で、すぐ近くに住んでいる男の子と仲良くなった。
いっつもにこにこ、いっつもやさしい。
ウサギのぬいぐるみのように、笑顔いっぱい。
ちょっと泣き虫なのがたまにきず。
それでも私の意地悪な言葉には、全然へっちゃらな顔をして笑っていた。
いつの間にか仲良くなった。
両親のいない寂しさも、彼が笑ってくれる度に少し無くなった気がしていた。
小学生に上がって、ウサギのぬいぐるみはぐちゃぐちゃになってしまったけれど。
彼がいてくれたから、寂しくはなかった。
(;*^ω^)「あ、あの!あの、その!ええとだお、ええと」
中学生になってすぐの、ある日。
校門を出てすぐの所で、彼に呼び止められる。
いつもは緊張なんてしないのに、珍しくあたふたとしている彼に向かって
首を傾げると、こほりと咳払いをしてこちらを見た。
真面目な顔をして。
真面目な声で。
( ^ω^)「…僕は、君が好きです」
( ^ω^)「ずっと、ずっと前から大好きでした」
( ^ω^)「つきあって、ください」
私は大きくなったけれど、彼も立派に大きくなった。
大真面目に私を見てくる彼は、昔のように泣き虫では無くなっていた。
空手を始めて強くもなった。
ずっと、ずっと前から隣にいてくれた。
これからもずっと、一緒にいてくれると。
そう、言ってくれたのだろうか。
目を丸くして固まって、そのままの状態で泣き始めた私に。
彼は大慌てで、ハンカチを握って涙をぬぐってくれた。
付き合い始めて最初のプレゼントは。
ウサギのぬいぐるみだった。
前に持っていたものよりも安くて、小さくて。
それでも優しさたっぷりの、彼からの贈り物。
( ^ω^)=3「やっと渡せたんだお!」
誇らしげに胸を張った彼に、とびっきりの笑顔と、感謝の言葉を。
それともう一つ。
だいすきよ、ブーン。
精一杯の、思いをのせて。
***
(;^ω^)「…ど、ういう…事なんだお?」
叫び声が突如止み、ぷつりと糸が切れたように静かになった校庭。
クックルを包んでいた真っ黒いモノは、小さく収縮し、最後には閉じた。
その中にいたであろう、クックルごと飲み込んで。
無くなってしまった。
その場に残されたのは、ブーン達が持っているものと同じ石だ。
青く輝く、未知の宝石。
ξ;゚-゚)ξ「きえ、ちゃった…」
(;'A`)「…」
ツンとドクオも放心状態だ。
目の前で起こった出来事を脳が把握できていない。
3人のいる場所に、兄者と弟者が近づいてくる。
流石兄弟と呼ばれる2年唯一の双子である。
( ´_ゝ`)「大丈夫か?…って、ブーンはあんまり平気そうじゃないな」
(´<_` )「脇腹か」
2人とも身長が高いので、若干屈んでブーンを覗き込んだ。
身長は大差ないが、細身なのが兄者、ガタイが良い方が弟者である。
弟者はブーンの左脇腹を、ぺちりと叩いた。
( ゚ ω ゚)「オスギ!!!」
(´<_` )「あー、折れてるわ」
ξ;#゚⊿゚)ξ「ちょ、ちょっと!やめなさいよ何するの!?」
(;´_ゝ`)「何してんだお前は!」
(´<_` )「いや、どんくらいのもんかとな」
( ゚ ω ゚)「ピーコ!!!!」
(;'A`)「叩くなっつのに!」
追い討ちをかけて再度叩いた弟者に、周囲の3人はまとめてツッコんだ。
悲鳴なのか良くわからない声を上げたブーンは、ツンに支えられながら
必死に痛みに耐えている。
(´<_` )「そんなに強く叩いてない。
これで痛けりゃ、内臓傷つける可能性があるくらいに
折れてるって事だ」
さらりと言ってのける弟者に、ツンとドクオの表情は更に青褪める。
兄者は丸めていた背を伸ばし立ち上がって、一つ溜息をこぼした。
( ´_ゝ`)「…救急車呼んでやりたいけど…」
この状況下で来てくれる可能性は極めて低いと言えよう。
ξ;゚⊿゚)ξ「どうして!?」
(´<_` )「俺らは近辺ぐるりと回ってここに辿り着いたんだが」
( ´_ゝ`)「こんなんばっかりだった」
まるでゾンビ映画さながらの風景だった。
そう、流石兄弟は言葉を洩らす。
今の町の様子から、医療分野自体が麻痺していると考えた方が妥当だろう。
行きかう人々皆、頭に黒い靄を乗せながら奇声上げて徘徊しているというのに、
そういう事柄に対処するべき、医療や警察などと言った組織を流石兄弟は目にしていない。
ξ;゚-゚)ξ「…でも、ブーンをこのままにはしておけない…」
( ´_ゝ`)「せめて痛み止めでもあればマシになると思うけど」
(;'A`)「薬くらいなら、保健室にあるんじゃねぇか?」
(´<_` )「貸して、ツンちゃん」
ξ;゚⊿゚)ξ「ほえ?」
(;´ω`)「グフウッ」
ツンから奪うようにブーンの腕を取ると、弟者はその身体をひょいと背負った。
鍛えている上若干ふくよかな体系のブーンは結構な重量だろうが、弟者は飄々としている。
('A`)「さすが」
(´<_` )「身体弱いのいるから慣れてるさ」
(;´_ゝ`)「うっせえわい、とにかく保健室に行くぞ」
弟者がちらりとも兄を見ずにそう言えば、兄者は苦虫を潰したような表情になった。
(;´ω`)「…面目ないお」
( ´_ゝ`)「いいよ。困った時はお互い様ってね」
(´<_` )「兄者が背負ってるわけではないけどな」
( ´_ゝ`)「おだまり」
('A`)「…なあ」
歩き出そうとした所で、ドクオが2人を呼び止めた。
首を少しだけ背後に回すと、真剣な面持ちのドクオと目があう。
('A`)「お前らは、何か知ってるのか」
この状況の事を。
クックルが何故、あんなことになってしまったのかを。
そして、これからどうすればいいのかを。
( ´_ゝ`)「…それは…」
(´<_` )「歩きながらでも話せる。行くぞ」
冷静に、というよりも、冷徹な程に冷めた弟者の声がドクオを促した。
ここに来てからというもの、弟者は威圧感を隠そうともしない。
ドクオが口をヘの字に曲げたのと、弟者とを交互に見た兄者は、また小さな溜息をついた。
ξ゚-゚)ξ 「…?」
そんなやり取りを心配げに見ていたツンが、違和感に気付く。
砂を踏む皆の足音が。
違和感。
若干の、音が。
否。
ふと視線を脇にずらすと。
先程ドクオが倒した数人が。
クックルと同様、黒い塊になって。
こちらに視線を向けていた。
じゃりりと、地面の砂を握り締めて、こちらを見ていた。
ξ;゚⊿゚)ξ「あっ…」
(:::::::)(:::::::)(:::::::)
黒が一斉に立ち上がる。
それらに一番近い場所にいるツンは、蛇に睨まれた蛙のように一瞬固まってしまった。
気付いたブーンが声を荒げるのと、黒が咆哮を上げ出し、走り出すのとは同時だった。
(;^ω^)「ツン!!!」
ξ;゚⊿゚)ξ「…っ、あ」
(;'A`)「またかよ!!」
(;´_ゝ`)「やっべ…っ」
(;^ω^)「ツン、走るお!!ツン!!」
(´<_`;)「ちょ、おい!暴れるな!!待て!!」
弟者の背中から無理やりに降りたブーンは、痛む脇を無視してツンの腕を取った。
黒いものが迫ってくる。
(:::::::)「ギギギィィギィギィィギギィ!!!」(:::::::)
(;'A`)「2人とも急げ!!早く!!」
(;´_ゝ`)「Arrest!!」
兄者が右手を構え、一番近くに迫っていた黒い塊に鎖を巻きつけ拘束する。
伸びていた手は、辛うじてツンには届かない。
だがバッグに指を引っ掛けたのか、一瞬だけツンの身体が仰け反る。
それをブーンが必死に引っ張った。
(´<_`#)「せっ!!」
その黒い身体を今度は弟者の双槍が横薙ぎに吹き飛ばす。
鎖が外れて靄が地面に叩きつけられた。
ξ;゚⊿゚)ξ「あ!!」
(;^ω^)「ツン!?」
走っていたツンの身体が止まる。
そのすぐ脇を、轟音が光を帯びて通り過ぎた。
左手から迫っていた黒を、後方からドクオが狙い撃ったのだ。
また一つ靄が倒れた。
(;'A`)「いっ…たく、ねえぞ!!」
やせ我慢としか思えない台詞を吐いてはいたが、今度は衝撃を
踏ん張って耐えたようだ。
(;^ω^)「ツン、走るお!どうしたんだお!?」
ξ;゚⊿゚)ξ「だめ、待って!待って!!」
ブーンに腕を引かれて後退しながらも、ツンは黒いソレらの方へと行こうとする。
(;'A`)「何だよ、どうした!?」
(;´_ゝ`)「ツンちゃん!早く!!」
(´<_`#)「クソ共が、叩っ斬る!!」
(;´_ゝ`)「めっ!やめなさい弟者!帰ってらっしゃい!!」
(;^ω^)「ツン!!」
尚も行こうとするツンを、ブーンは仕方なしに抱え上げた。
ξ;゚⊿゚)ξ「お願いブーン、だめ、あれだけは、ダメ!!」
ツンの視線の先。
転がっているのは。
***
***
ξ*゚⊿゚)ξ 「すごい!又三郎すごい!!」
(;^ω^)「僕ら形無しじゃねぇかお…どうすんの…」
ひしめいていた黒いモノを、うさぎのぬいぐるみ、もとい又三郎が
投げ飛ばしていく。
その光景たるや、まさに千切っては投げ、千切っては投げ、である。
ブーンは目の前の状況を見つめつつ、何とも言えない表情をしていた。
が、涙も引っ込んだツンが歓喜していると、途端に又三郎が元のサイズに
戻ってしまった。
ξ;゚⊿゚)ξ 「…あれ?」
(;^ω^)「おっ?」
慌てたように又三郎がこちらに走ってくる。
ブーンの足元まで来ると、ぴょいんとジャンプをして、ツンの腕の中に納まった。
( ´_ゝ`)「…」
(´<_` )「何だったんだ一体」
( ´_ゝ`)「きっかり3分」
('A`)「はい?」
( ´_ゝ`)「あのぬいぐるみはウルトラマンのようだな」
後ろで見ていた兄者が、ぽつりとそう呟く。
( ´_ゝ`)「強いけど時間制限付き」
('A`)「ああ…」
(´<_` )「なるほど」
ドクオが少し安心したような、残念なような、複雑な表情を浮かべる。
ぶっちゃけ又三郎が常にあの状態では、立つ瀬が無い。
まあ安全は確保されるだろうが。
(;^ω^)「おっ、皆大丈夫かお」
(;'A`)「お前は大丈夫じゃねえな」
こちらにやってきたブーンが、ツンを地面に下ろす。
途端に脇腹を押さえてしゃがみ込んでしまった。
ξ;゚-゚)ξ「…ごめん…」
(;^ω^)「無事でよかったんだお」
( ´_ゝ`)「弟者」
(´<_` )「はいはい」
(;´ω`)「おぉん…すまんお…」
ブーンを背負うと、弟者はスタスタと歩き出した。
そのまま学校の正面玄関へと入っていく。
他の3人もそれに続いた。
ここから入って左に曲がり、廊下を進んで突き当たりの部屋。
そこに保健室がある。
ξ゚-゚)ξ「…ブーン」
(;^ω^)「何だお?」
弟者の背中にいるブーンを、ツンが呼んだ。
脂汗を流しながら、それでもブーンはツンの呼びかけに笑っている。
ξ゚⊿゚)ξ「…ありがとう」
必死になって守ってくれて。
一生懸命に助けてくれて。
( ^ω^)「怪我してなくて、良かったんだお」
ξう-゚)ξ「…バカ」
***
僕はツンが大好きだ。
もう誰にも傷つけさせないように、僕が守ると心に決めた。
僕が、守ると決めたんだ。
1話・了
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