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小さい頃、母ちゃんと父ちゃんが離婚をした。
俺が小学校へあがる前の事だ。
女手一つで俺を育てる母ちゃんは、父ちゃんがどこにいったのかも分からない俺に、
ただずっと、ごめんね、ごめんねと謝るだけだった。
母ちゃんは、スーパーで朝から晩まで必死に働いた。
小学校に上がって、父ちゃんがいない俺はいじめられるようになった。
母ちゃんに似て、背が小さく痩せていたからか。
洋服が着まわしばかりで、少し汚れていたからか。
運動が苦手で、体力も無く、腕力で勝てない俺を、ガタイの良いいじめっ子達は
笑いながら執拗に蹴ったり殴ったりしてきた。
毎日痣だらけになったけれど、母ちゃんには平気な顔をしてみせた。
そんなある日、いじめっ子が最悪な事を言ってきた。
金よこせ。
遊ぶ金が欲しいのだという。
小学校低学年の言うことだ、万札よこせというわけではなかっただろうが
お小遣いなんて貰わない俺には、100円でも50円でも大金だ。
出せるわけないと言ったら、こう言ってきた。
お前の母ちゃんの財布から持ってくればいいだろ。
頭に血が上る。
母ちゃんがあくせく働いた金を、こんな奴に渡せるわけがない。
どれだけ母ちゃんが疲れているのか知らないくせに。
どれだけ母ちゃんががんばってるのか知らないくせに。
いじめっ子に体当たりをしてからは、何がどうなったのか覚えていない。
今まで以上にぼろぼろになって家に帰ってきた俺を見て、母ちゃんは一度
とても驚いた顔をして、それから優しく抱きしめてくれた。
ごめんね、と。
泣いていた。
それから暫くして、引っ越すことになった。
いじめっ子の親から抗議があったらしい。
俺は何も悪いことはしていないと思うのに、ふざけた話だ。
事情を知っている母ちゃんだけは、お前は悪くないよ、と言ってくれた。
引っ越した先。
友達なんて出来るわけないだろうと俯き加減で登校した先で、なんとも能天気に
笑うやつに出会った。
隣の席になったそいつは、にこにこと人懐こい笑顔で俺に話しかけてきた。
( ^ω^)「僕は、内藤ホライゾンだお。ブーンて呼んでほしいお」
あだ名が本名とかすりもしていない。
訝しげに見ていると、ブーンは俺の机に自分の机をごつんとくっつけてきた。
(*^ω^)「教科書もってないお、一緒に見るお。
ええっと、あだなはあるお?なんて呼べばいいお?」
明るくて、優しくて、元気で、俺がないもの全部持っていた。
俺が自分の名前を小さな声で応えた時にした、ブーンの笑顔を。
俺はきっと、生涯忘れることはないんだろう。
(*^ω^)ノ「ドクオ、今日からよろしくだお!友達だお!!」
その日、俺に親友が出来た。
***
ξ;゚⊿゚)ξ 「ブーン、それ大丈夫なの?熱かったりしないの!?」
(;^ω^)「おっお。熱くも痛くもないんだお」
駆け寄ってきたツンに、ブーンは首を傾げながら応えた。
手を振ってみたが違和感は無い。
炎の赤というよりは、青色に近い色合いで燃える拳。
その揺らめきの中に見えるグローブは、先ほどまでと違った形状をしている。
( ^ω^)「…何だか不思議だお…」
手のひらを握ったり開いたりしながら、ブーンは感触を確かめた。
よく漫画の主人公が「力がみなぎってくるぜ!」なんて言ったりするが、まさにそんな状態だ。
一体自分の身に何が起きたのかは、全くもってわからないが。
(*^ω^)「今なら破ァッ!!ってできそう…」
寺生まれのBさんとかにもなれるかもしれない。
ツンやドクオに寺生まれって凄いって言わせられるかもしれないと思うとwktkする。
いや、寺生まれではないけれども。
(;'A`)「んな事やってる場合か!あいつが倒れてる間に逃げるぞ!!」
( ゚ ω ゚)「げぶはぁっ!!」
ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン!?」
ボーっと突っ立ったままぼそりと呟いたブーンの背中を、ドクオが叩く。
その拍子に、ブーンが地面に膝を付いた。
(;'A`)「え、おい、俺そんなに強くぶっ叩いてないんだけど…」
ξ;゚-゚)ξ「…もしかして」
ツンがしゃがんでブーンを覗き込むと、ドクオが手を出した場所とは全く違う所を
抑えて悶絶している。
左脇腹。
先ほどクックルの膝を入れられた所だ。
力はみなぎっても、外傷を治してくれるというわけではないようで。
ξ;゚⊿゚)ξ 「ちょっと、やだ!大丈夫なの!?」
(;^ω^)「お…大丈夫、だいじょぶ…」
ちっとも大丈夫では無い痛みだが、ここでずっと悶えているわけにもいかない。
ブーンは脂汗を流しながらゆっくりと立ち上がった。
動く度にずきりと痛みが全身を巡るけれど、歩けないわけではないのだ。
今はとにかく逃げなければ。
ツンがブーンの横に入り込み、立ち上がる為に肩を貸した。
それに続き、ドクオも膝を折ろうとする。
が。
3人のいる校庭の脇から。
ぎい、ぎい、という、赤ん坊の泣き声よりもずっと甲高い声が響いた。
金属音に近いその音が近くなる。
多い。
輪唱のように、その耳障りな音を鳴らす。
嫌な予感がして右側にゆっくり顔を向けると。
校舎の奥からぞろりぞろりと、人が出てきた。
頭の上には、三つの点が付いた、黒いもやを乗せて。
ゆらゆらと揺れながら、一斉にこちらにへ目を向ける。
('A`)「やば」
ざっと見ても10人はいる。
ドクオが言葉を零すと、それらは口を開けて凄まじい咆哮をした。
(:::::)「アアアァァァァアァァァアァア!!!」(:::::)
先程と同じだ。
覚束ない足取りで、それらはこちらに向かって走ってくる。
ドクオが二人を庇うように前に出た。
ブーンは今走れる状態ではない。
ツンはそれを支えている。
二人を守れるのは現状で自分しかいない。
そう一瞬で認識しての行動だった。
条件反射である。
けれど、手に持っているのは所詮おもちゃの銃。
ブーンのように拳だけで守れる強さもドクオには無い。
過去、いじめられた経験から護身用として持っていたエアガンは、
今この場においてはあまりにも非力だ。
ドクオはぎり、と下唇を噛んだ。
***
***
ギイィ、と、まるで断末魔のような高音が響く。
(;'A`)「いってえぇえっ!!」
それとにドクオが後ろにすっ転んで上げた声が重なった。
横向きになって倒れたまま、全身びりびりとさせ悶える。
背中を強打したのと、腕が痺れたのとで二重苦を味わっているようだ。
(;^ω^)「おっ!おっ!!」
ξ;゚⊿゚)ξ「ド、ドクオまで!?」
痺れているであろう手で、それでも握っているエアガンが、
ブーンの拳と同じように、青色の炎のような揺らめきを帯びていた。
元々の形状よりも、若干大きくなっているようにも見える。
痺れの悶えも収まり、ようやくドクオが立ち上がった。
(;'A`)「腕死ぬ、何これマジいてえ、反動重いわ!重すぎるわ!!」
頭の回転はいい方だ。
その脳で悟る。
練習と称して遊びで何度もエアガンを撃っているが、こんな反動を
受けたことは一度たりとてない。
そして運動事体苦手なドクオは、腕も細く、この一撃を耐えられる
腕も足腰も持っていない。
つまり。
(;'A`)「…あんま、撃てねぇ」
マジで運動しとくんだった。
後悔は先には立たない。
(;^ω^)「ど、ドクオ!!」
ξ;゚⊿゚)ξ「ななな…」
(;'A`)「あ?どうした、まだいるの…」
今は撃てる気がしない。
弱気な事を考えつつ二人を見れば、驚愕した表情を浮かべてドクオの
後ろを指差していた。
つと右を見れば、今倒した複数人が倒れたまま動かなくなっている。
黒いモヤがじりじりと動いていたが、二人が言いたいのは
それの事ではないようで。
冷や汗が出る。
そっちには、確か。
('A`)「…う、うわあ…」
( ^ω^)「何が…起こってんだお…」
ξ゚⊿゚)ξ「わかるわけ…ないじゃない…」
それは校庭のど真ん中に。
立っていた。
(:::::)
クックルだ。
あそこに倒れていたのだから。
そして、あの巨体なのだから。
しかしそれはもうクックルの体を成していなかった。
真っ黒なカタマリに、三つの点。
(::∴::)「ギギギ、ギギ、ギ」
全身を黒に染めた、化け物が立っていた。
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***
よたりよたりと、足取りはゆるい。
しかし、確実にこちらへと距離をつめてくる真っ黒なソレは、
巨大になった手をこちらに伸ばしてきた。
(;'A`)「くっそ…!」
ドクオが青い炎を湛えたままのエアガンを構える。
二の腕が突っ張ったように痺れて痛んだが、そんな事を構っている場合ではない。
ブーンが動ける状態でないのもそうだが、果たしてアレに触れて
大丈夫なのかが分からないのだ。
揺らぐどす黒さは、何もかもを飲み込みそうな色でクックルを飲み込んでいる。
ブーンの拳では直接相手に触れなければダメージを与えられない。
あの黒に触れてしまう。
(;'A`)(ここは俺が、やらにゃ)
ドクオは歯を食いしばり、引き金に指をかけた。
と。
「ちょっと待っててなドクオ」
('A`)「…あ?」
声が響く。
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