( ^ω^)「というわけで」
ベッドに腰掛けながら、ブーンは膝をぱしりと叩いた。
( ^ω^)「何が一体どうなってるのか分かる人、お手上げしてほしいお」
そう切り出したものの、しんと静まり誰一人動かない。
予想していた結果ではあるが、眉根を寄せて、ため息をついた。
弟者に無理やり隣のベッドに入れられた兄者が、上半身だけ起こしてうーんと首を倒す。
( ´_ゝ`)「ギコ先輩としぃ先輩は、今までずっとここに?」
首の位置を戻して、椅子に座るしぃとその横に腕組みして立つギコに問うた。
( ,,゚Д゚) 「…不甲斐ない話だが、朝練の時に腕を捻ってな。
道場の外の階段部分でしぃにテーピングをしてもらっていたんだ」
(*゚-゚)「その時に、道場から悲鳴が聞こえて…」
( ,,゚Д゚) 「入ってみたら、頭に黒い何かを付けた同級生が暴れていた」
ギコは腕組みを逆に直し。
目を伏せがちにしてから、間をおいて、また話し出した。
( ,,-Д-)「…それを見た奴らは、次々に悶え始めたんだ」
(*゚-゚)「…必死に、呼びかけたんだけど…」
倒れて苦しむ剣道部の人々に、ギコとしぃは体を揺すって必死に名前を呼んだという。
しかしそれも虚しく。
( ,,゚Д゚) 「そこにいた全員、黒い何かを体の一部に付けて暴れだした」
(*゚-゚)「そこでね、ギコ君は竹刀が大きな剣になって、私は持ってた包帯がこうなったの」
ギコは、突然襲って来た相手からしぃを助けるために。
しぃは、腕を怪我して動きが鈍るギコを助けるために。
必死に相手を思いやった結果が、巨大な剣と癒しの能力だった。
( ,,゚Д゚) 「それで片っ端から薙ぎ倒して、ここに来たってわけだ」
(;^ω^)「流石剣道部主将…片っ端からですかお…」
スポーツ特進クラスの、更に武芸系部活動の主将を務めている人々はなぜ
こうも鬼ばかりなのか。
ブーンは、精進せねばと口を引き結ぶ。
ξ゚⊿゚)ξ「…私も、必死だったなあ…」
('A`)「俺もだな…」
ブーンの横に座るツンは、又三郎をぎゅうと握り締めた。
大切なうさぎのぬいぐるみは、青い光を帯びながら、ツンを仰ぎ見ている。
そのベッドの下で床に胡坐をかいて座るドクオもまた、青い炎に揺れる手の中の銃を眺めた。
(´<_` )「…」
( ´_ゝ`)「俺らもまあ、死に物狂いだったよ」
兄者のいるベッドの縁に軽く腰掛ける弟者は、双頭槍を腕に引っ掛け、その腕を組みながら
黙って話を聞いている。
それを横目で見ながら、兄者が困ったように笑った。
彼の右手の全ての指には、やはり青色に揺らめくいくつものリングがはめられている。
( ´ω`)「皆、必死な時にこうなったって事かお?」
つ
青い炎を湛えた手をあごにかける。
ブーンもまた、ツンを助けようと高揚した時にこうなったのだ。
普段使っていた空手用のグローブは、形を変え、手の甲部分は金物のような光沢を放っている。
('A`)「共通しているのはその部分か」
気持ちが高ぶった時。
( ^ω^)「…僕はただ、守りたかったんだお」
ξ゚⊿゚)ξ「私も…」
('A`)「…俺も」
( ´_ゝ`)「俺もかな」
(´<_` )「…」
( ,,゚Д゚) 「皆同じか」
(*゚-゚) 「それが、理由?」
大切なものを守りたいが為に。
力が宿った。
(;'A`)「んな非科学的な…」
( ´_ゝ`)「多分、他にも共通して何かがあるんだと思うぞ」
ξ゚⊿゚)ξ「いくら気持ちが高揚したからって、こんな事起こるはずないものね」
( ^ω^)「共通してる何か…」
(*゚-゚)「普段とは違うことがおきている…とすれば、普段していないことをしているのかも」
σ
しぃが細い人差し指を唇に当てながら思案する。
それぞれに考えていると、ふと、ブーンが口を開いた。
( ^ω^)「…そういえば、今朝普段してないこと、一つだけしたお」
ごそごそと、ポケットを探る。
出てきたのは、親指と人差し指に挟まれた。
青く輝く石。
揺らぐ青の炎と同じ色をした、未知の宝石。
( ^ω^)つ。「…これ拾ったお」
ξ゚⊿゚)ξ「あ」
('A`)「あ」
ツンは黒のバッグの中に。
ドクオは制服のポケットの奥に。
( ´_ゝ`)「え」
(´<_` )「…ふむ」
兄者はチェーンの先、母者の作ったお守り袋の中に。
弟者もポケットに入ったお守り袋の中に。
( ,,゚Д゚) 「…それは、この前川原で拾った…」
(*゚-゚)「この前のデートの時の…」
ギコは袴の紐に括りつけた、しぃの選んだ香り袋の中に。
しぃはスカートのポケットに入れた香り袋の中に。
それぞれ、この石を持っていた。
('A`)「…石、か…」
全員が青い石を持っている。
確定するには決定打に欠けるが、今の所全員の変わった共通点はこれくらいしかない。
(´<_` )「兄者」
Σ(;゜_ゝ゜)「ん?って、のわ!」
今まで会話に入ってこなかった弟者が、突然兄者を呼んだ。
返事をした兄に、持っていた双頭槍をぽいと渡す。
慌ててそれを掴んだ兄者は、目を丸くして弟者と槍とを交互に見やった。
兄者の両手に掴まれた槍からは、青い炎が揺らめいている。
(;´_ゝ`)「お、おま!!」
(;'A`)「何してんだ!!」
(;*゚-゚)「弟者君!」
(;^ω^)「お?」
その場にいたブーンを除く全員が、驚いた表情で弟者を見る。
(´<_` )「武器は離れても大丈夫、と」
まあツンちゃんのウサギが平気なんだから、予想の範囲内ではあったけど。
そう無表情で言ってから、兄者の手の中にあった槍をまた掴む。
そして腕を組んだ同じ体勢に戻るのを見て、兄者が頭を掻いてなんとも言えない顔をした。
(;´_ゝ`)「お前ねえ…」
( ^ω^)「…なんだお?」
ξ;゚⊿゚)ξ「武器が手元から離れたら、元に戻っちゃうかもしれないでしょ?」
そうすれば、武器の威力は半減、もしくはそれ以下になろう。
だが弟者の予想通り、それはそのまま炎を宿し続けている。
そして石を持つ別の者の手に持たれても、影響を受けない事が今の行動で分かった。
( ^ω^)「おっ、なるほどお!」
ようやくブーンは心得て、こくこくと頷く。
(;'A`)「ったく…まあ大丈夫だったからいいけどよ…」
それに続いて、ドクオがため息をついた。
ξ゚-゚)ξ「石を捨ててみれば、これのせいって事もわかるけど…」
今この状況で石を手放し、もし同じように武器に青い炎が纏えなければ致命的である。
兄者が疲れたようにベッドに横になった。
枕にふかりと頭を乗せると、薄水色の耳をへたりと上に向ける。
( ´_ゝ`)「とにかくだ。全員しっかりとその石を持っててくれ。
手元から離れてしまったら、どうなるか責任は持てんからな」
(*゚-゚)「そうね」
頷いたしぃの横で、ギコが呆れたように目を細める。
( ,,゚Д゚) 「…弟者、お前もう少し冷静だと思っていたが」
(´<_` )「冷静ですよ、充分」
('A`)(どこがだよっつの)
今日の弟者の様子は明らかにおかしい。
無表情もここまで来ると天晴れなものだが。
ドクオが抱く弟者の通常の姿は、そっけないがきちんとした奴、だ。
だが今は、何かに苛立ち、何かに必死であるように見える。
('A`)(…原因なんか、兄者以外ないんだろうけどさ)
双子の兄を守り抜く、過保護の中の過保護。
それが流石弟者である。
ドクオはそうなる理由を知らないが、弟者の琴線に触れる何かがここに来るまでにあったのかもしれない。
それが原因で武器が炎を纏ったのだろう。
全て憶測であるし、弟者にそれを聞く事は憚られるが、きっとこの考えは間違いではない。
兄を守るためならなんでもする弟だ。
(;'A`)(…何もなきゃいいんだけど)
弟者の強さは折り紙つきである。
何せ格闘技界で最強の名を欲しいままにし、結婚して引退した後も各地で名前が挙がる、あの流石母者の息子であり、
スポーツ特進には無いはずの少林寺棍術で、特別推薦枠を設け入学しているのだ。
運動はからきしのドクオにとっては、どれだけ凄いのかもうよく分からない所に弟者はいる。
そんな弟者も、兄者の言う事だけはするりと聞く。
兄者は言わば、弟者のストッパーなのだ。
彼がやめろと言えば弟者は止まるし、彼が行けと言えば弟者は迷いなく突っ込む。
ドクオよりも体の弱い彼がその役を担うのは些か酷だろうが。
ここに来るまでに体力を使いすぎた兄者は、先程からベッドに横たわっている。
ドクオが見ると、そのベッドの縁に座る弟者が、兄者の肩まで上掛けを掛けてやっていた。
本当に、何もなければいいのだが。
もう一度小さくため息をついたドクオに、兄者も弟者も気が付かなかった。
( ^ω^)「あと分かってることは…」
ξ゚⊿゚)ξ「兄者と弟者はあるわよね」
校庭で出会い、兄弟が助け舟を出してくれた時。
兄者は、すぐに止まる、と言った。
更に、そんなことしなくても先輩はもう、と、2回も時間について言葉にしている。
ツンが問うと、兄者はベッドの中で体を横に向け直した。
( ´_ゝ`)「ここに来るまでに分かった事だけどね」
一つ目は、攻撃をせずとも時間がくれば黒い靄を宿した人々は止まるということ。
二つ目は、真っ黒なあの体になってからの活動時間が、5分ということ。
三つ目は、彼らの行く末が、青く光る石だということ。
(;*゚-゚)「…」
( ,,゚Д゚) 「…これは、人ってことか?」
ギコが袴についた匂い袋に手をやる。
そこに入っているのは、しぃと拾った件の青い石だ。
ξ;-⊿-)ξ「…」
ツンがブーンの服の裾を掴む。
顔色を悪くしながら下唇を噛んで俯いたツンを見て、ブーンは眉根を寄せた。
こうもなるだろう、兄者が言う事が正しければ、今自分たちが持っているのは、
言い方は悪かろうが人の屍骸に相当するようなものなのだ。
( ´_ゝ`)「黒い靄が人に寄生してからの時間は、分からないままだが」
( ^ω^)「その辺は、僕も見てないからなんとも言えないお…」
( ,,゚Д゚) 「俺たちはその瞬間を見たが…
生憎、お前たちの言う、真っ黒な化け物とは対峙していないのでな」
('A`)「…一ついいですか、先輩」
( ,,゚Д゚) 「何だ?」
口を尖らせて話を聞いていたドクオが、ギコに問うた。
('A`)「時間云々じゃないんですけど…
ギコ先輩はさっき、あいつらを見たら皆が悶えだした、って言いましたよね」
( ,,゚Д゚) 「ああ」
('A`)「でも俺たちは何ともない」
( ´_ゝ`)「ふむ…」
ξ゚-゚)ξ「確かに…そうよね」
黒い靄が体のどこかに現れる予兆もない。
しぃがゆっくりと、制服のポケットへと手を伸ばした。
(*゚-゚) 「また、これのおかげ…?」
武器を強化し、作り、体を守る。
(;^ω^)「何かめっちゃ万能だお」
(;'A`)「でも、そう考えるのが妥当っちゃ妥当なんだよなあ」
( ´_ゝ`)「魂のようなものだからかな」
ξ゚⊿゚)ξ「魂…?」
兄者が、肩まで掛けられた上掛けを更に上まで引っ張り、肩を丸める。
( ´ ゝ`)「ダンカン・マクドゥーガルって知ってるか?」
('A`)「マクドゥーガル?」
( ´_ゝ`)「アメリカの医師だよ。
ダンカン・マクドゥーガルは、人間と犬を使って魂の重さを導き出した。
死ぬ寸前と、死んだ後の体重を量ってな」
兄者は一度自分のポケットへと手を伸ばしてから、一息ついて口を開く。
( ´_ゝ`)「かなり昔の話で信憑性はあまりないといわれいているが。
それでも、彼はその命の源を重さとして表した」
ポケットに入れられた、青く輝くチェーンの先にある、お守り袋から石を取り出した。
それをころりと掌に乗せて、兄者は細い目を更に細くした。
( ´_ゝ`)「21g、それが、人の魂の重さだ」
ξ゚-゚)ξ「21g…」
( ´_ゝ`)「そう。ちょうど、これくらいの重さなんだ」
青く光る石は、何も語らずにそこにある。
( ´_ゝ`)「マクドゥーガルがそれを発表したのは1907年。
それから第二次世界大戦下、ドイツ軍の医師団がそれを元に色々な研究を
したって噂もあるな」
混沌とした時代、ナチスドイツでの人体実験は凄まじいものだったという。
考えたくもない非道な研究の中には、ナチスドイツを率いたアドルフ・ヒトラーの命により
永久の魂に関しての研究もされたという話も残っている。
( ,,゚Д゚) 「お前は、その何十年も前の研究が関係していると見るのか?」
( ´_ゝ`)「関係しているかどうかは分かりませんし、とても不確定なものですから
俺には何とも言えませんけど…」
手に持っていた石を、オレンジ色のお守り袋に入れなおし、そっとポケットに入れる。
下がってしまった上掛けを、弟者がまた片手で兄者の肩まで掛けなおした。
( ´_ゝ`)「…俺にはこの石が、人の魂そのものの塊なんじゃないかって、そう思えるんです」
('A`)「…魂の、かたまりか」
兄者の背が更に丸まった。
ドクオは一つつぶやくと、天井を見上げる。
兄者の言った事が本当であれ間違いであれ、人がこの石になってしまった事実は曲げられない。
とんでもない話だと、奥歯を噛み締めた。
( ^ω^)「…難しくてあんまりわからんかったけど」
ξ;゚⊿゚)ξ「あんたね…」
ブーンが頭の上にはてなを出しながらそうつぶやいたので、隣のツンは呆れ顔でツッコんだ。
どんよりとしたこの場の空気を変える、のんびりとした声色と表情。
兄者はブーンを見ると、一拍おいてから、困ったようにへらりと表情を崩した。
( ´_ゝ`)「うん、そうだな。まあ勝手な考察だからな、あまり気にするな」
( ^ω^)「おっ。難しい事はツンとドクオにまかせておくお!」
(;'A`)「他人に頼んな!」
ξ;-⊿-)ξ「仕方ないわねえ」
( ,,゚Д゚) 「ともかく」
沈んでいても仕方がないと、ギコが袴を揺らした。
( ,,゚Д゚) 「俺たちが寄生されないのも、武器がこうなったのも、石が原因かもしれない。
あいつらの末路がこの石。そして、あいつらには時間制限がある。
今の所分かっているのは、これくらいか?」
('A`)「ですかね」
(*゚-゚) 「…この後、どうしようか」
手持ちの情報としては些か少なすぎる。
しぃがギコを仰ぎ見ると、その目線は次に兄者へと向けられた。
それを追って、全員の目が兄者を捉える。
(;´_ゝ`)「…俺ですか」
( ,,゚Д゚) 「一番いい答えを出してくれそうなのでな」
( ^ω^)「がんばれ主席!」
('A`)「まけんなー」
(;´_ゝ`)「やる気ない声出すなお前は」
困って弟者を見上げれば、弟はいつもより目を細めてこちらを見下ろしていた。
3秒ほどその目を見てから、兄者はため息をつき、上半身をまた持ち上げる。
( ´_ゝ`)「…他の場所がどうなっているのか、とにかく何か情報がほしい」
ξ゚⊿゚)ξ「携帯でもあればよかったんだけど…」
(*゚-゚)「うちは携帯持ってきちゃだめだものね」
( ,,゚Д゚) 「俺なんて持ってすらいないからな」
( ´_ゝ`)「というわけで、テレビかラジオか、その辺の物がある所に行きたい」
( ^ω^)「職員室とか…視聴覚室とか?」
('A`)「職員室はどうだ?先生がいるかもしれないぞ?」
ξ゚⊿゚)ξ「大人の人がいたら心強いけど…」
(;^ω^)「…真っ黒になってたら、狭いしきついかもしれないお…」
( ´_ゝ`)「剣道部主将にうちの弟と、次の空手部主将候補と。
一発逆転で、ツンちゃんとドクオ。万が一怪我したらしぃ先輩がいる。
戦力的には申し分ないさ」
('A`)「おいこら兄者、お前換算されてねえぞ」
(´<_` )「出なくていい」
( ´_ゝ`)「だそうなので」
(;'A`)「過保護…」
ξ;゚⊿゚)ξ「過保護だわ…」
( ^ω^)「過保護だお!!」
(´<_` )「言いたきゃ言ってろ。とにかく兄者は後方だ」
(;´_ゝ`)「あーあー分かったよ。すいません本当…うちの愚弟が…」
(*゚ー゚) 「疲れてるなら仕方ないわ。気にしないで休んでいてね」
( ;,゚Д゚) 「噂には聞いていたが…兄者が絡むと凄まじいな。
まあいい。とにかく職員室に行くんだな?」
( ´_ゝ`)「ええ。何かしら分かればいいんですけどね」
ぎしりとベッドを揺らして縁に腰掛けた兄者が、床に地面をつけて靴を履いた。
それに続いて、ブーンとツン、それに弟者もベッドから腰を浮かす。
ドクオが立ち上がると、全員で廊下へと続くドアを見た。
( ^ω^)「…いっちょ、行きますかお!!」
3話・了
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