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一目ぼれ、というものが本当にあると知ったのは、高校に上がってすぐだった。
よくある話だ。
不良に絡まれる女子、そこに通りかかった自分。
剣道の腕だけは誰にも負けなかったから、それはもう見事に伸した。
覚えてろよと三文芝居さながらの台詞を吐いて逃げ出す不良たち。
そして、しゃがみ込んだ女子に、俺は手を差し伸べた。
よくある話だろう。
絡まれた女子を助けて、その子にお名前は、と聞かれるあれだ。
普通であれば。
そう、世間一般的な認識であれば、ここで頬を染めるのは女子の方だ。
だが実際は違った。
見事に。
逆だった。
助けた女性の目を正面から見た瞬間、顔を真っ赤にしたのは俺だった。
美しい桃色の毛並み、凛とした眼差し、優しく笑う口元。
(*,゚Д゚) 「け、怪我は!していないか!!」
(*゚ー゚) 「してないわ、本当にありがとう。助けてくれて」
可愛らしくも耳に暖かさまで残るような声。
(*,゚Д゚) 「ああああ、あの、その」
(*^ー^) 「?」
繋いだ手の温もり、向けられた笑顔。
(*;;゚Д゚) 「お、お名前を聞かせてくれないだろうかゴルァァア!!!」
女などまるで興味もなく生きてきた。
硬派も硬派、興味があるのは生きる道と決めた剣道で強くなること、それのみ。
そんな俺の。
完全なる、一目惚れだった。
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ブーン達が通うVIP高校は、VIP学園と言う学園内の高等学部だ。
幼稚園から大学院までと学部を持つ、言わばマンモス校である。
昔から難関校として知られているが、近年では更に運動にも力を注いでいる。
VIP高校は、2種の部に分けられる。
通常クラスとスポーツ特進クラス。
スポーツ特進も幅広く採用しており、武道に秀でた者が多くいるのが特徴的だ。
大学にスポーツ科学部も数年前に出来た為、そちらに進むものも多い。
通常クラスに在籍しているのが、ツン、ドクオ、兄者。
スポーツ特進クラスに在籍しているのが、ブーンと弟者だ。
武芸という観点から、ブーンと弟者とが最初に親しくなり。
通常クラスによく顔を見せにいく弟者に付いて、ブーンがツンとドクオに会いに来る。
そこに明るい気質の兄者を巻き込めば、顔見知りから友人になるまで時間はかからなかった。
弟者は帰れば棍の道場へ行くし、ブーンも部活が忙しい。
そんなわけで5人で遊びに回ることはなかったが、クラスは違えど会えば気さくに話せる仲ではある。
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(;´ω`)「ぉおーん…」
ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン、もうちょっとだからね」
脇腹を怪我して動けないブーンを、弟者が背負いながら廊下を歩く。
横から心配げにツンが見上げて声をかけた。
背負われて揺れる振動すら響くようで、ブーンはいつもの笑顔を消して眉根を寄せる。
('A`)「…なあ兄者。俺、わかんないことだらけなんだけど」
( ´_ゝ`)「安心しろ。俺もだよ」
(;'A`)「嘘付けよ、最初冷静に対処しやがったくせに」
( ´_ゝ`)「あれを冷静ってんなら、ドクオはまだまだだね」
自信満々に言う言葉ではないが、兄者は胸を張って言った。
某テニス漫画の主人公が言っていたような台詞に、ドクオは黙って兄者の脛を蹴る。
(;´_ゝ`)「いっ!」
(#'A`)「茶化すなアホ」
(´<_` )「ドクオ、お前後で日本海にコンクリート詰めして沈めるからな」
(;´_ゝ`)「ったくないです!!」
(;'∀`)「やだもう!兄者ったらおちゃめさん!!」
機嫌の悪い弟者が言うと、本気のようでまじめに恐ろしい。
ドクオが顔を引きつらせながら笑みを作ると、弟を犯罪者にさせないよう、
兄者は口を噤んだ。
そんな漫才を行っていると、先を歩いていた弟者とツンの足が止まる。
(´<_` )「さて、着いたわけだが」
ξ;゚-゚)ξ「…入って、大丈夫かな」
目的地。
通路最奥の、保健室。
ドアは閉められており、ドアについている窓にも内側から小さなカーテンがされて
内部がまったく把握できない。
(;'A`)「…立ち止まっててもしかたねぇ」
一瞬の間をおいて、ドクオが保健室のドアの前に立った。
後ろをちらりと見ると、弟者の背中の向こうに、親友の汗だくの顔が見える。
口をへの字に曲げてそれを確認し、ドクオはドアをにらみつけた。
(#'A`)つ「男は度胸…!!!」
ドアの取っ手を掴むと、ドクオは思い切りドアを引いた。
***
***
ξ゚-゚)ξ「…治す、術…」
見惚れたように、ツンがその光景を見た。
皆が纏う、静かだけれども攻撃的な青い炎とは違う、優しい光が辺りを飛び交う。
しぃの持つ包帯は、ブーンの腹から脇腹にかけてぐるりと何周かした後、
体に溶けるようにふわりと光を残して消えていった。
( ´ω`)「…おーん…?」
(;'A`)「お、おいブーン!しっかりしろ!」
ξ;゚⊿゚)ξ「大丈夫…!?」
体を揺すらないように肩に手をかけたドクオがブーンを呼ぶ。
その反対側から、ツンがブーンの顔を覗き込んだ。
(;^ω^)「…おっ…?あれ?」
目をしぱたかせながら、ブーンはゆっくりと上体を起こす。
それを不安げに見つめるツンに向き直って、首を傾げた。
( ^ω^)「痛くなくなったお…」
ξ;*゚⊿゚)ξ「…!!」
(ノ;'∀`)ノ「うおおお先輩すっげえぇえ!!」
(*゚ー゚) 「よかった、お役に立てて何よりよ」
ドクオが歓喜の声を上げる横で、しぃはにこりと微笑んだ。
ドクオは振り上げた腕をそのままブーンの頭上にばしばしと叩きつけると、
ブーンはぐらぐらと頭を揺らす。
(;^ω^)「あうあう、ドクオ、普通に痛いお」
ξ;⊿;)ξ「馬鹿!!もうやめてよね、こんな怪我!!」
(*;^ω^)「おうふ」
不意にツンに抱きつかれ、ブーンはまたもぐらりと頭を擡げた。
ぐずぐずと鼻を啜る音が耳元で聞こえる。
これは本気で心配をかけてしまったようだ。
ツンの事を心配するのも辛いが、ツンに心配をかけるのも同等に辛いと知る。
泣かれてしまうとやはり自分もきついのだ。
( ´ω`)「…ごめんお」
頭を撫でると、一層鼻を啜るので、ブーンは困ってドクオを見やる。
('A`)「リア充困れ、大いに困り果てろ」
(;^ω^)「助け舟が泥舟だったお…」
( ,;゚Д゚) 「この甘ったるい空気はどうにかならんのか」
(*゚ー゚) 「少女マンガとか苦手だものね、ギコ君」
(´<_` )「今度兄者の隠れた愛読書貸してあげますよギコ先輩」
(;´_ゝ`)「え、ちょ」
(´<_` )「ママレードボーイにご近所物語にふしぎ遊戯に、最近は君に届けが」
Σ(;´_ゝ`)「言うのやめてくださる!?」
(*゚ー゚) 「あら私も好きよ、君に届け。素敵な話よね」
ギコが兄者を細目で見ると、兄者は目を逸らして弟者をにらみつけた。
タイトルは知らないが、話の流れからそれらが女性読者ばかりの漫画なのだろうと推測したらしい。
しぃはにこやかに笑っているが、それが更に兄者を居たたまれなくさせる。
( ,,゚Д゚) 「まあいい…弟者とそっくりという事は、お前が弟者がいつも言ってる双子の兄か。
確か学年主席だった気がするが、お前が少女漫画趣味なのは心に留めておく」
(iil´_ゝ`)「…留めないで下さい…あと弟者いつも俺の何を話してるんだ…」
(´<_` )「さあね」
(;^ω^)「兄者、そんな趣味が…」
(;'A`)「初めて知った…」
ξ゚⊿゚)ξ「…今度、ストロボ・エッジとアオハライド貸してあげるわ兄者」
( ´_ゝ`)「弟者、お兄ちゃんお前の事ヘッドロックしたい」
(´<_` )「やらせんよ。つかできる訳ないだろ、そんな細腕で」
(*^ー^) 「仲良しねぇ」
( ,,゚Д゚) 「…収集がつかん」
諦めたようなギコのため息が、しめきった保健室に響いた。
***
顔を真っ赤にして、繋いだ手を痛いくらいに握り締めてきた男の子。
必死な顔で名前を聞いてきたので、思わずぽろりと名乗ってしまった。
私の名前を3回ほどゆっくりと呟いてから。
私の目を見て。
真剣な表情で。
それでも真っ赤なほっぺたで。
とても、素敵な、名前だ。
彼は真面目にそう言った。
そして、自分の名を名乗って、ぎくしゃくとした足取りで行ってしまった。
次の日。
友人にその事を話すと、彼のことを知っていると言う。
剣道部にいる新進気鋭の1年生。
私は普通科、彼はスポーツ特進で別の学部だけれど、同じ学校の同じ学年だと知った時、
ああ、運命なのかもしれないと本気で思った。
また次の日。
私は彼がいる剣道部へと足を運んだ。
道場を覗き込むと、剣道着に身を包み、部活に勤しむ彼がいる。
ひたすらに竹刀を振り。
ひたすらに汗を流し。
ひたすらに前へと。
がらりと扉を開けると、彼がこちらを見た。
驚いた表情、次に、初めて会った時のように赤くなる顔。
彼を恋しい、と思った。
(*゚ー゚) 「剣道部のマネージャーになりたいのですが」
(*;゚Д゚)「お、あ、え、ご、ゴルァァァア!!!?」
こんなに真摯な人を、他に知らない。
初めての時から変わらない、まっすぐな心。
優しさも強さも、全部この人は持っている。
少しだけ頑固だけれど、それも彼の魅力。
彼のそばで少しでも彼の道をサポート出来たらいい。
何かあれば、私が彼に肩を貸そう。
まっすぐで横道を知らない彼の役に立とう、少しだけでも。
そう、決めたのだ。
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