(゚<_゚ #)「ああぁあああ!!!」
弟者の手に持つ棍が、その姿を変える。
両先端に刃をつけ青い炎を携えたその武器は、双頭槍とでも言おうか。
それで思い切り、兄者を掴んでいた黒い靄を薙いだ。
兄者から手が歪む黒い手が剥がれる。
(;´_ゝ`)「げほっ、ごほっ…!」
右手に青い炎を湛えた兄者が、肺への空気の流入により咽こんだ。
地面に崩れながら、息を整えようと躍起になる。
兄者の右手指には、連なった指輪のようなリングがいくつもはまっている。
熱くも冷たくもないその炎を纏った右手を目の端で捕らえながら、
兄者は浅く早く、呼吸を繰り返す。
顔を上げれば、弟者が周囲にいた人々を巻き込みながら、兄者の首を絞めていた
真っ黒な化け物へとその槍を打ち込んでいた。
地面から生えた鎖に身を動かすこともできないそれに、弟者は執拗に攻撃を繰り返す。
肩と腕を頻繁に狙っているように思うのは、きっと思い違いではないだろう。
完全に我を忘れている。
兄者はいまだ整わない呼吸のまま、叫んだ。
(;´_ゝ`)「弟者!!」
(゚<_゚ #)「殺す!!!」
(;´_ゝ`)「大丈夫だから…もういいから!弟者!!」
兄者の右手指に伝わる感覚は、先程からずいぶんと重くなっている。
あの鎖が、自分のこの指にはめるリングに連動しているであろう事は、
なんとなく予想が付いた。
この重みは、弟者が打ち込む衝撃の重さというよりは、先程から鎖に
寄りかかるように動かなくなった、あの黒い化け物の重みだろう。
弟者は、叫びながら刃を振り回す。
(゚<_゚ #)「殺してやる…!!」
( ´_ゝ`)「…弟者…」
なんだ。
どこかで。
どこかでこんな光景を。
昔。
黒の男、あの日、あの夏の日。
頭の隅にポツリと残る、光景。
そうだ。
あの時、俺が倒れる前、倒れている最中。
聞いていた、ぼんやりと見ていた、その風景の中にいたのは。
弟者だ。
黒い男に殴りかかり、持っていたナイフを奪って。
振り回し、逃げる男を掴んで、その腹に。
ナイフを突き立て。
(゚<_゚ #)「死ね」
そう言って、目を見開いたまま、俺をみないまま。
命を奪う言葉を吐きながら、心をどこかにやりそうな弟者を。
( _ゝ )「生きてる」
そう言って繋ぎ止めた。
(゚<_゚ )
暴れていた弟者の動き、ぴたりと止まった。
( ´_ゝ`)「弟者、俺は、生きてるから」
残していかない、残したくない。
( ´_ゝ`)「ここにいるから」
(´<_` )「…」
弟者がこちらを見た。
数秒間、目を向けたまま微動だにしなかった。
兄者がゆっくりと瞬きをする。
すると、何人もの自由を奪っていた鎖が、光のまま消えて解けていく。
黒い化け物が支えの鎖を失い、どさりと音をならして地面に崩れる。
この場で立ち上がっているのが、兄弟2人だけになる。
そこでようやく、弟者は大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出した。
( ´_ゝ`)「…落ち着いたか?」
(´<_` )「…すまなかった」
( ´_ゝ`)「怒っちゃいないさ」
怒る道理はないだろうに。
そう言って、ようやく落ち着いた呼吸に安堵しながら、兄者はふらりと立ち上がる。
近くに寄ってきた弟者が肩を貸した。
(::::∴::::)「ギギ…ッ」
Σ(;´_ゝ`)「うおぅ!」
(´<_` )「…」
突然。
真っ黒の化け物が、地面にはいつくばったまま鳴き声を上げた。
兄者を支えながら双頭槍を構え、弟者が姿勢を低くする。
しかし。
::(::::∴::::)::「ギギッガ、アァ、ア、グ、ゲ!!!」
震え、喉の奥から血を吐きそうな声をだしながら、化け物は苦しみ始めた。
身を捩り、頭を掻き毟り、地面をのた打ち回る。
(;´_ゝ`)「…っ」
(´<_` )「…」
尋常ではないその光景を、兄者は息を呑んで見守るしか出来ない。
一方弟者は眉根に皺を寄せるだけで、その表情には兄者のような痛みは見られない。
数秒間ではあるが。
散々悶えた黒い化け物は、一瞬息が詰まったように動かなくなると。
::∴:: 「ィ」
ぎゅうぎゅうと身体が圧縮されていく。
そのまま小さく小さくしぼんで、ぱちりと。
まるで風船が破裂するように。
::「」
ぷつりと消えた。
その場にからりと落ちたのは、青の石。
(;´_ゝ`)「……」
(´<_`;)「これって…」
あまりの現実離れした光景に動けずにいた兄者が、足元に転がってきた青く光る石を見つめる。
それを摘み上げようとした弟者の腕を、兄者は咄嗟に押さえた。
(;´_ゝ`)「待て、待て待て、不用意に触るな」
(´<_` )「しかし兄者、これは…」
(;´_ゝ`)「…そうだな」
今もポケットに入っている、大事な妹者からの贈り物。
母者が作ったお守り袋にいれて肌身離さず持っている。
その中身と、寸分違わぬ同じものだ。
(;´_ゝ`)「いやそんな、まさか」
(´<_` )「…兄者、考えるのは後だ。とにかく、休めるところに行こう」
(;´_ゝ`)「…そう、だな…」
弟者に支えなられながら、兄者はゆっくりと歩き出した。
だが。
(´<_` )「っと…」
(;´_ゝ`)「うえぇ…」
この路地を折れると少々開けた道沿いに出る。
左手に折れて進むと学校の裏門に出るが、そこから少し進んで学校を囲う
フェンスの端まで行くと、正門方向に伸びる細道があるのだ。
そこへ向かおうとしていたのだが。
(;´_ゝ`)「どんだけいるんだよ…」
2体の真っ黒な化け物と、1人の靄を被った女性が、裏門付近でうろうろとしていた。
だがこちらに気付いた様子はない。
距離は、2、30mと言った所か。
弟者が、持っていた槍をぐるりと回した。
(´<_` )「ちょっと待ってろ、伸してくる」
(((;´_ゝ`)つ< ´_>`)「待て待て待て、待てっての」
兄者は、無表情で行こうとする弟者の尖った耳を引っ張って、それを制す。
止められた事への反発か、耳の痛みか、表情を歪めた弟者に、兄者は人差し指を
口元に立てて見せる。
( ´_ゝ`)「いいか、弟者。無闇に突っ込んでも怪我するだけだ。
b こちらは幸い見つかってないんだし、少しだけ様子を見よう」
(´<_` )「だがなあ…」
( ´_ゝ`)σ「状況をよくする為に、観察させてくれ」
鼻のすぐ先に、兄者の人差し指がびしりと止まる。
兄者にそう言われてしまっては、弟者は何も返せない。
弟者は顔面一杯に、ぶちのめしたいです、と表示させながら、むすりと黙る。
それを苦笑しながら見やってから、兄者は裏門へと向き直った。
( ´_ゝ`)(さて…弟者を止める為に言ってはみたが)
あの化け物をぼーっと見ていた所で、状況を打破する案が見つかるとは思えない。
( ´_ゝ`)(疑問ばかりだ)
何故、あの靄は人にとりつくのか。
何故、襲ってくるのか。
何故、今日だったのか。
何が目的なのか。
あの真っ黒な化け物と、靄には何の関係性があるのだろうか。
先程見た、化け物の最後はどういう事なのか。
いなくなった場所から現れた、青い石は何なのか。
人々は生きているのか、あの状態ではもう死んでいるのだろうか。
黒い靄は増殖しているのか、移動するだけなのか。
(;´_ゝ`)(…ん?)
思考を巡らせて、疑問点を次々に脳内に上げていた兄者が、ふとそれを止めた。
裏門付近にいた、靄を被った女性が、突然ばたりと倒れこんだのだ。
(´<_` )「…」
(;´_ゝ`)「…」
弟者はすうと息を吸って、兄者の前に一歩出た。
塀であちら側からは見えていないだろうが、兄者を少しだけ後退させる。
弟者の肩口からそっと覗き見ると。
女性を取り囲むように、靄がぶわりと広がった。
そのまま、女性は全身を呑まれていく。
女性の甲高い悲鳴のような声が響いて。
目から、鼻から、耳から、靄が女性の身体の中に流れ込んでいく。
白目が黒く染まる。
ぽっかりと目玉が無くなったような顔つきになり。
女性の白い手が、喉を掻き毟った。
兄者がその光景を見て息を飲むと、弟者が後ろ手で、兄者の肩を引っ張り
壁側に押し込んだ。
見るな、という事らしい。
ホラーゲームで耐性はあるが、やはり生では話が違う。
兄者は、しゃがみながら両手で顔を覆った。
(´<_` )「…兄者」
(;う_ゝ∩)「…何?」
(´<_` )「増えた」
(;´_ゝ∩)「え」
つ
弟者が身体を少しずらしたので、兄者は恐る恐るあちらを見やった。
黒い化け物が、3体になっている。
(´<_` )「女の人が呑まれて、ああなった。
…経緯はまあ、考えなくてもいいよ」
(;´_ゝ`)「…」
黒い化け物と、靄の関係性。
(;´_ゝ`)(靄が第一形態、化け物が第二形態、ってとこか)
兄者は口元に手を当てながら、その光景を見る。
(;´ ゝ`)(女性には一切危害は加わってない。
つ なら、あの状態になるのは、どういうきっかけなんだ?)
ならば、と、兄者は他の黒い化け物に目をやった。
それはすぐにやってくる。
今度は裏門のすぐ前にいた化け物が、もがき始めた。
先程と一緒だ、金切りの奇声を上げ、頭を掻き毟り、転がり。
やがて小さく小さく収縮し、ぷちりと消えた。
今回は弟者は何もしていない。
(´<_` )「…兄者」
(;´_ゝ`)「…確信が欲しい、ちょっと待って…」
ものの数秒で、また一体が苦しみだす。
兄者は顔を歪めてその光景を見ていた。
その表情を見下ろしていた弟者は、自分のズボンが思い切り握り締められている事に気付く。
小さく溜息をついて、必死に向こうを見る兄者の頭に、ぽんと手を置いた。
(´<_` )「無理すんな」
(;´_ゝ`)「してない」
強情なのはどっちだか。
兄者は散々弟者に、強情だ、突っ走るな、と言うが、兄者とて本質は変わらない。
双子なので弟者は心得たものだが、兄者に言えばきっとふて腐れるだろう。
兄者の目線の先で、2体目の黒が途切れて消えた。
残るは、先程の女性。
見るも無残に真っ黒な姿へと変貌してしまった彼女は、もはや女性なのかも男性なのかも
外見から区別はつかない。
( ´_ゝ`)(3分)
脳内で時間を計る。
弟者が兄者に敵わないと言わしめるのは、こういう部分が随所にあるからだ。
アバウトな感覚ではない。
正確なのだ。
( ´_ゝ`)(4分)
細い目を少しばかり開いて、兄者が黒を見る。
( ´_ゝ`)(5分)
黒が、もがき始めた。
やがてぷつりと。
消えてなくなる。
( ´_ゝ`)「時間だな」
(´<_` )「ふむ…」
一言で理解して、弟者は構えを解いて腕組みをした。
(´<_` )「手を下さずとも、消えるということか」
( ´_ゝ`)「逆に、手を出しても消えない可能性もあるな」
(´<_,` )「時間までは思う存分いたぶれるってわけだ」
(;´_ゝ`)「怖い発想に行くんじゃありません!」
薄く黒い笑顔を浮かべた弟者に、兄者は若干引きながらもツッコミを入れる。
そしてゆっくりと立ち上がった。
暫くしゃがんでいたおかげで、痛みは残るが多少は動きやすくなったようだ。
( ´_ゝ`)「行こう、弟者」
(´<_` )「了解」
2人同時に走り出す。
裏門を横切り、フェンスの角を、左に。
大通りに出てまた左に曲がれば、そこはもう学校の正門だ。
フェンスを隔てた、その奥。
「失くして!!!」
兄弟の耳に聞こえてきたのは、同級生の叫び声。
(#'A`)「たまるかああああぁぁぁあああ!!!!」
そして轟音。
(;´_ゝ`)「…この声、ドクオか!?よかった、生きてる!!」
(´<_` )「そのようだな」
走って向かった先で、兄弟は3人の無事を確認する事になる。
2話・了
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